4.許可の判断

農地の売買の相手は、農家であれば誰でもいいのかというとそうではありません。農家であってもいろんな基準があって、それらをすべてクリアしている農家でなければなりません。以下に買い手の農家の要件を、あまり一般的でないものを除き箇条書きで示してみます。(農地法第3条第2項各号)

(1)耕作に必要な機械の所有状況、従事する人数、すべての農地を利用しているか(農地法第3条第2項第1号)

まず、譲受人が耕作に必要な機械を持っているかが問われます。例えば、田を取得する3条申請だとすると水稲には一般的に、トラクター、田植え機、コンバイン、乾燥機などがなくてはなりません。それなのにトラクターしか持っていなかったら、一般的に水稲は作れないと判断され、不許可になります。

また、従事する人数も同じで、例えば今まで兼業農家で耕作者一人で1町(約10,000u)耕作していたところ、5反(約5,000u)取得する申請した場合、一挙に1.5倍の経営面積になります。はたして全部耕作できるのかと判断されます。

最後に、すべての農地を利用しているかが問われます。申請地と譲受人の住所が一緒の場合、農業委員会では農家台帳を管理しているので、申請があると譲受人の台帳を見て、他の人に農地を貸している(農地法第3条か農業経営基盤強化促進法第18条の利用権設定されている場合)かどうか判断します。

もし譲受人が一筆でも貸していれば、全部耕作していないとみなされ不許可となります。提出する前にこれらの権利を解除しておきましょう。貸し借りがついているかどうかの判断は、農業委員会に「○○番地(複数あればすべて)は貸し借りがついていますか?」と聞けば教えてもらえます。もしついている場合は、農地法第20条の合意解約書の提出が必要です。合意解約書は農業委員会にありますのでその用紙を使いましょう。

多いケースとしては、農業経営移譲年金(特例付加年金)を受給するために息子へ使用貸借権を設定している場合です。この場合、合意解約すると上記の年金が支給停止になりますので留意してください。

それとは別に、申請地と譲受人が同一市町村の場合で気をつけなければならないことがあります。農家台帳に記載の所有農地に農地の現況地目が書いてあり、仮に現況地目欄に「雑種地」「宅地」などとあると、違反転用していることになり、その土地は当然農地ではないので全部耕作していないことになります。

譲受人が申請地に住所がない場合は、その申請地の農業委員会の添付資料にもよりますが、農家証明だけを添付する市町村の場合は、この情報が載っていない市町村が多いのでこの情報は把握できません。しかし、農業委員会側で経営状況調査書を相手農業委員会へ取り寄せる場合があり、そこに現況地目記載欄があるため全部耕作していないのがわかり不許可になります。

また、農業委員会によっては譲受人の所有する農地すべてを農業委員や事務局職員が実際見に行って、すべて耕作しているか確認する農業委員会もあります。ここまでやるかどうかは、都道府県や市町村によって、または、その農業委員会の職員または農業委員会としての資質によるところが大きいです。

(2)農業生産法人以外の法人は不許可(同第2号)

農業生産法人とは、4つの要件すべてを満たした法人です。以下が4つの要件です。詳しくは農地法第2条第3項を参照してください。
一つ目は法人形態で、有限会社、農事組合法人、合名会社又は合資会社、定款に株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨の定めがある株式会社です。
二つ目は事業要件です。主たる事業が農業と関連事業(法人の農業と関連する農産物の加工販売等)であることで、農業と関連事業が売上高で過半でなければなりません。
三つ目は構成員要件です。構成員とは出資者のことです。その出資者は@ 農地等を提供した個人A 常時従事者(原則として年間150日以上で法人の農業と関連事業への従事が対象)B 地方公共団体、農地保有合理化法人、農業協同組合、農業協同組合連合会C 農作業を法人へ委託している個人D 継続的取引関係を持つ個人・法人(法人から物資の供給を受ける者又は法人の事業の円滑化に寄与する者、農商工連携事業者等(3年以上の取引契約を書類で締結することが必要)
四つ目は役員要件です。@農業生産法人の役員の過半の人が法人の農業や関連事業に常時従事する構成員であること、A@に該当する役員の過半が省令で定める日数(年間60日等)以上農作業に従事することです。

これらを満たしていない法人は3条申請は不許可になります。よく勘違いされるのは、農業生産法人という前記のような商業登記簿謄本にのる名称があると思われることです。実際はありません。4つの要件を満たした前記の会社、例えば株式会社アグリという名の法人が4要件を満たしているので、農業生産法人としての資格があるという感じです。ですから正式に前記の例えで言うと、農業生産法人アグリではなく、農業生産法人資格を有する株式会社アグリとなるのです。
また、農業生産法人になったら、毎年、事業の状況その他農林水産省令で定める事項を地元の農業委員会に報告しなければなりません。(農地法第6条)

(3)常時農業を営んでいるか(同第4号)目安としては年間150日(S45通達)

これは農業委員会が、譲受人の農家台帳に記載の農業従事日数を見て確認します。通達で150日以上となっているため、それ以上従事していれば問題ないですが、それ以下の場合は農業委員会に言って150日以上にしてもらいましょう。

農業委員会によっては8月1日現在の小作地所有状況調査(ハチイチ調査)の時以外は変更を認めないところがありますので、前もってその調査の時に修正しておきましょう。

ただ、農業委員会によっては、60日以上になっていれば問題ないと勘違いしている農業委員会や、申請時の申請書の中で150日以上と書いてあればよいという農業委員会も多々ありますので指摘されない場合もあります。

(4)耕作面積は50a(約5反)以上あるか(同第5号)

これは農家台帳に記載されている面積が都府県では50a(約5反)、道では2ha(約2町)以上あれば問題ありません。また、平成21年の改正農地法により、「農業委員会が、農林水産省令で定める基準に従い、市町村の区域の全部又は一部についてこれらの面積の範囲内で別段の面積を定め、農林水産省令で定めるところにより、これを公示したときは、その面積」が追加され、各市町村ごとにその市町村全域または一部の地域ごとに前記より少ない面積を設定することができるようになりました。それにともない、全国の農業委員会にそれらを議決させて公表するように通達がありましたので、HPまたは広報誌等に必ず掲載されているはずです。もしなければ農業委員会に問い合わせてみましょう。中山間地などは50aではなく20aなどになっている場合もあります。

いずれにしろ、自分の所有農地が前記の面積未満だったとしても申請する面積を合わせて50a(50a以下に設定されている農業委員会であればその面積)あればよいことになります。

ですから極端な例で言うと、10a(約1反)しか農地を持たない農家は、今回申請の農地が40a(同上)あれば大丈夫ということになります。(ちなみに、新規就農の場合は、その他にさまざまな要件があります)

(5)小作地の場合、転貸禁止(同第6号)

小作地とは、農地法第3条で使用貸借権や賃貸借権がついている場合や農業経営基盤強化促進法第18条の利用権設定されている場合で、要するに借りているものが第三者へ転貸することを禁止しています。

(6)事業の内容や位置や規模からみて、集団化や効率的かつ総合的な利用の確保に支障が生ずる場合(同第7号)

これは例えば田んぼが広がる農地に土盛りをして畑として利用したいという申請の場合、今までは大区画に畔を取り払っていたのを申請地だけ元の区画に戻した上に土を盛って畑にしてしまうと、今まで大区画の田んぼで機械で一挙に田植えや稲刈りができたのに、ポツンと畑が現れたことによって、まわりを耕作していた農家にとっては作業効率が悪くなってしまうといった場合などが考えられます。

また、位置も重要で、極端な例で言うと、東京に住所がある申請者が群馬県の農地を申請した場合一般的に距離が遠すぎて耕作できないと判断されます。しかし、これが隣の神奈川県だったらどうかというと微妙です。この距離の基準はまったくありませんので、社会通念上耕作ができない距離にあれば不許可になります。私が経験した許可になった一番長い距離は直線距離で30kmでした。微妙な距離の場合は、農業従事日数や農機具の保有状況、経験などを総合的に判断します。明らかに投資目的と判れば不許可になります。

これらは申請地がある地元農業委員の意見が重要な位置を占める場合が多いと思います。



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